―自由貿易体制を死守せよ―
猫の目のように変わる米国トランプ大統領の関税発言に、世界経済は一喜一憂し、株価は乱高下しています。正に、先行き不透明なトランプ・ショックです。
力を背景にした“トランプ流ディール”に対抗するために、戦後世界秩序の基礎となった自由貿易体制の意義について、改めて確認することは、とても大事なことと思います。
〇 ―自由貿易体制は、世界の平和と経済発展の基礎―
・自由貿易体制は、貿易に係る関税や数量制限などの障壁を引き下げ、自由な取引を促進する仕組みです。自由貿易体制は、関税などによって国内産業を守る保護主義とは、対局にある仕組みです。
戦後各国は、GATT(ガット)やWTO(世界貿易機関)を通じ、話し合いによってお互いの関税を引き下げてきました。その結果貿易が活性化し、世界経済は大きく発展をしました。
自由貿易体制の背景には、戦前の保護主義が第二次世界大戦を引き起こした一因だという反省がありました。世界恐慌の際、大国は他国の製品を高関税で排除しました。そして、排他的な貿易体制の構築によって世界的なブロック経済化が進み、ブロック間の政治的・経済的摩擦が戦禍を招くことになったのです。
・大西洋憲章は、1941年(日本が米国の真珠湾攻撃によって太平洋戦争に突入した年です)、ルーズベルト米国大統領とチャーチル英国首相が、第二次世界大戦後の両国の目標を示した声明です。
同憲章では、国際貿易に関して「大国たると小国たるとを問わず、全ての国に対し、経済的繁栄に必要な通商関係が等しく開放されるよう努力する」と謳っています。自由な貿易こそ、世界の平和と経済発展の基礎であるとの理念を掲げたものであり、そしてその理念は、今日まで戦後の世界秩序の礎になっているのです。
・「米国第一主義」を声高に訴えるトランプ氏は、歴史の教訓から何も学んでおられないのではないか、と思われます。
米国と交渉に臨むにあたっては、「自由貿易体制こそ世界の平和と経済発展の基礎である」と毅然として訴えるべきです。
〇 ― 日米交渉は「ゆっくり急ぐ」―
・日本政府は、米国との交渉を「ゆっくり急ぐ」と言っています。
誠に、「言い得て妙」です。
格言にもあります。「急いては、事を仕損ずる」と。
・交渉事は、急いだほうが負けます。高関税は、米国経済にインフレをもたらし、トランプ支持者の家計を直撃します。関税政策の朝令暮改的変更は、トランプ支持者の不平・不満を反映したものと言われています。
また外交面でも、「私が、大統領なら24時間以内に戦争を終わらせる」と豪語したものの、大統領就任後100日を経過してもウクライナやガザでの戦禍は止みません。
来年秋には、中間選挙があります。成果を急いでいるのは、トランプ大統領の方でしょう。腹に力を込めて、焦らず、じっくり構え、正々堂々と正論を展開するべきです。
以上
2025年5月11日
元公明党国会対策委員長 漆原 良夫